第11回移民難民スタディーズ公開研究会 報告
中国帰国者の今 ?三?四世代の日本?
2021年7月30日(金)10:00~12:00
オンラインZoom会議
司会:相良 好美(现在哪个app能买足彩社会科学研究院)
報告者:吉岡 孝行(中国残留邦人等の体験と労苦を伝える戦後世代の語り部)
安場 淳(首都圏中国帰国者支援?交流センター)
報告
第11回研究会は「中国帰国者の今?三?四世代の日本?」をテーマに、長く中国帰国者支援に取り組んできた安場淳氏(首都圏中国帰国者支援?交流センター教務)と同センターの語り部育成事業を経て「中国残留邦人等の体験と労苦を伝える戦後世代の語り部」として活動されている吉岡孝行氏のお二人をゲストにお招きし、日本における中国帰国者の現在についてお話を伺った。研究会はオンラインの公開研究会の形式を取り、当日は40名を超える参加者があった。
中国残留孤児とは、1945年の日本の敗戦時に主に中国東北部に取り残されて帰国できなくなった日本人のうち当時年少だった者を指し、概ね13歳以上だった者は残留婦人と称される。彼らとその家族のうち、1972年の日中国交正常化以降帰国を果たした人たちが中国帰国者と呼ばれている。中国残留孤児?婦人の永住帰国が本格化して既に40年が過ぎようとしており、その総数は一~三世で10数万人とも20万人とも推定されている。この30~40年、一世そして二世の多くは「日本人」になろうともがき、今や三世?四世は「日本人」としての目で、祖父母や父母を「中国人」と見なしつつもダブルリミテッド状況に陥っている家庭もあるなど、多様な帰国者像が生まれている。
研究会前半では「中国残留邦人等の体験と労苦を伝える戦後世代の語り部」として活動する吉岡氏より、ある中国残留孤児女性の半生(講話)を語っていただいた。戦時中に満州に渡り、戦後、中国人に引き取られて育った女性が、後に日本に帰国し「本当の自分」を知り得るまでの50年を描いた物語であった。女性は自分のルーツ?家族にたどりつくまでに「4つの名前」を要した。
一世世代の講話を受け、後半は、安場氏より中国帰国者定着促進センター時代より30数年にわたって中国?サハリン帰国者の学習支援に関わる立場から、現在の日本における中国帰国者、特に三?四世代の現状について報告がなされた。安場氏が所属する首都圏中国帰国者支援?交流センターでは、中長期的視点から帰国者およびその支援者の支援を行っており、支援は帰国直後の研修から定住後の日本語学習、交流活動、生活相談、介護支援、情報提供および普及啓発など多岐にわたる。
帰国者とその家族が直面してきた課題には「日本語習得の困難さ」「情報アクセスの課題」「日本社会との接点の薄さ」などがある。中国帰国孤児?婦人のうち、婦人一世の平均年齢が91.3歳、婦人二世の平均年齢が60.8歳となった現在、一世世代には高齢化に伴う「医療通訳ニーズ」や「介護支援問題」などの課題が顕在化している。高齢となっても同胞との交流ニーズや日本語学習のニーズは高いものの、コロナ禍においては十分な交流活動ができず、社会的孤立や不活発症候群などが懸念される。また、私費帰国となる二?三世は国の援護対象外であるという点で、今後の高齢化に伴う課題の深刻化が懸念されている。三?四世代は来日時の年齢?滞日年数?家庭環境?中国での就学年数などを背景に個の状況がさらに多様化している。三?四世代の状況の特徴として、「世代間のコミュニケーション不全」や「部分的に維持される「中国人性」」、そして、家庭における「日本人的」な教育的?文化的資本の欠如を背景とした進路?就労の課題、継承語教育の問題などがある。これらは他のニューカマーグループと共通する課題であるとも言える。一方、中国帰国者固有の課題として、中国帰国者固有の家族史の断絶があると安場氏は指摘する。多くの帰国者は一世よりも上の世代のルーツを辿ることができない家族の孤独を抱えており、また、一世から下の世代への語り継ぎは十分になされていないことから、家族史の不継承という状況も垣間見える。
しかしながら、中国帰国者が戦中?戦後を通じて国(言語?文化)を二度にわたってまたがされた歴史は個人的な体験を超えており、日本社会全体が「帰国者の家族史」を知り、継承していく意味は大きい。中国帰国者の経験の語り継ぎは、物語の主人公である一世、そしてその経験を語り継ぐ次世代や非帰国者のどちらにも覚悟が求められる作業であると言える。二?三世にとってはいまだ言えない傷口を自らこじ開ける作業に耐えうる覚悟が、非帰国者の語り部志願者においては、当事者でない者が語ることに対する批判に応える覚悟が求められる。中国帰国者支援?交流センターでは、次世代の語り部=伝承者の育成が試行を通じ、断絶されつつある帰国者の体験の次世代への継承に取り組んでいる。
記録:相良好美